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デジタル時代に必要な記者スキルとは

f:id:saitoyasufumi:20150218145909p:plain(Tweetdeckの画面。ポップアップ通知の機能もある)

統計で明らかになるニュースルームの変化

授業の準備でちょっと面白い統計を見つけた。インディアナ大学ブルーミントン校が2014年5月に発表した報告書「The American Journalist in the Digital Age」。1971年からおおよそ10年ごとに行われている、いわば米国ジャーナリストの経年観察だ。調査自体は2013年秋に実施され、ランダムに選ばれた記者1080人が質問に答えた。

一口に書き切れないほどにいろいろ興味深い結果は出ているのだけれど、その中で目を引いたのがAdditional Trainingの項目。大多数(68.1%)が、仕事をする上でさらなるスキル習得の機会が必要だと回答した。そして、必要スキルとして挙げられたのは人気順に①ビデオ撮影&編集②ソーシャルメディア活用③データジャーナリズムだった。

f:id:saitoyasufumi:20150218133940p:plain(Lars Willnat and David Weaver, The American Journalist in the Digital Age)

このグラフはアメリカのニュースルームの変化を如実に示していると思う。クリック率を上げるビデオや写真をつけてソーシャルメディアに投稿することはもはや仕事の一環になっているし、大事件が起こればiPhoneを使って"新聞"記者が現場映像配信だってする。ビジュアルを強く意識して、もっとマルチメディアに展開をー。読者やニーズの変遷に合わせて、現場の記者に求められるスキルは刻一刻と変わり続けている。

70〜80年代の調査では、歴史や経済、法律など専門を含めた知識(Knowledge of world affairs)のニーズがもっと多かったという。教養の人気は減り、ウェブのコーディングなども含めたより実用的なスキルを求める傾向が浮き彫りになった形だ。

新聞紙がなくなり、ウェブだけになる日が近いとは言わない。ただ年々、人々はデジタル世界に生息域を移してきている。魚のいないところで釣りは出来ないのだ。そういった意味でFacebookTwitterの活用は必須と言え、悠長に検討するほどの余裕は本来ない。

どうやってソーシャルメディアを使うのか

大学院の授業でも、ソーシャルメディアの活用はよく登場する。記事に興味を引く見出しをつけてTwitterでつぶやいたり、結果の解析方法を学んだり。調査報道で有名なプロパブリカは出稿記事1本につき5ツイートが記者のノルマ、ハフィントンポストでは写真やSEO対策をした見出しがないと記事がボツになるそうだ。 

f:id:saitoyasufumi:20150218141910p:plain(Lars Willnat and David Weaver, The American Journalist in the Digital Age)

実際にアメリカの記者はソーシャルメディアを良く使う。といっても、上のグラフが示すように、まずは情報源としてだ。ミズーリファーガソンの黒人少年射殺事件を担当したThe Wall Street JournalのBen Kesling記者はその第一報をTwitterで得たという。

朝起きたらTwitter、暇が出来たらTwitter、寝る前にもTwitterをしているよ。だって何よりも早く情報が飛び込んでくるじゃないか。

彼らが主に使っているのは「Tweetdeck」というアプリ。複数のタイムラインを同時に表示できるソフトで、ユーザーを実際にフォローしなくても(ここが大事)ハッシュタグやユーザー名ごとにカラムを作ることができ、流れを整理しながら追うことができる。

例えば#commoditiesというハッシュタグを追えば、全世界のコモディティー市場や価格形成の事情が手元にどんどん飛び込んでくる。もちろん万能ではない。けれど、先物取引市場担当の記者ならば、そこから記事の種を見つけ出すことはたやすいはずだ。

老いる米国ニュース業界

The American Journalist in the Digital Age」では、必要なスキルやソーシャルメディアのほかにも、面白い統計情報がまとめられている。例えば、1982年に32歳だった記者年齢の中央値が、2013年にはなんと47歳にまで急上昇している。

また、学士号を持つ記者の割合は、1971年の58.2%から2013年は92.1%になった。かつては”ワーキングクラス”だったジャーナリストの世界でも、他業界と同じように急速な高学歴化が進んでいることがうかがえる。ただし、アメリカの記者の給料は日本のそれとは比べものにならないほど安いことを付記しておく。

ちょっと怖いのは、この40年間で仕事の満足度(49%→23.3%)や自由度(60%→33.6%)が著しく減ったことだろうか。薄暗い報道部の片隅でじっと耐えている人が今日もどこかでいる。明るい未来を早く見つけ出したい、と切に思う。