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少し先の未来のStorytellingやJournalismを模索するブログ

Datawrapperはもうほとんど魔法のツール

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お手軽データビジュアライゼーションの新機軸

記者が原稿と写真のクオリティーだけ気にしていれば良かった時代はもう遠い過去。データジャーナリズムという言葉が存在感を増す中、チャートなどを記事に付け、スクリーン上でデータを分かりやすくかつ視覚的に楽しく見せる必要性が高まっています。

でも、いざチャートを作るとなると技術的制約もあって難しい。正直言ってAdobeイラストレーターなんてきちんと使えないし、とりあえず社内のデザイン部署にエクセルファイルを投げてお任せ。そして出来上がったデザインを見て「こうじゃないって!記事の肝はここなんだから強調すべきなのはこのデータ!!」なんて心の中で愚痴をこぼす。 

Datawrapperはこんな日々におさらばするきっかけになるかもしれません。

ドイツ発のシンプルかつ美しいチャートビルダー

このドイツ生まれのオンラインサービスは美しいチャートを作る「データビジュアライゼーション」を簡単に実現してくれます。基本的にはエクセルなどのデータを用意して、貼り付けて、好きなチャートの形式を選ぶだけ。慣れれば5分くらいでシンプルながらきれいな棒グラフや折れ線グラフなんかがパッパッと出来ます。

 Datawrapperの良いところは、なんと言ってもデザインのシンプルさと分かりやすさでしょう。さらにマウスオーバーすると数値を表示したりするインタラクティブ性も備えています。というか、このツールを使うだけで、おそらく社内デザイナーさんのできる範囲を超えている部分も相当あるんじゃないでしょうか。

こんなふうにデータをグリグリ動かしたりすることも簡単にできます。このサービスに最初に出会ったとき、僕は本当に感動しました。コードが書けなくてもここまでできちゃう世の中になってきたんだな、って。

デザインをし終えると、どうやって出力するか聞いてきます。HTML/CSS/JavaScriptあたりの知識があって、チャートを使う予定のサイトに自分でファイルをアップロードするよって場合は無料。単純にiframeのエンベッドコードが欲しい場合は月12ユーロもしくは年100ユーロの契約が必要です(個人利用の場合。法人はまた違うと思います)。

大手紙でも広がる採用の動き

Datawrapperは大手メディアでも使われ始めていて、英紙ガーディアンや米経済紙ウォールストリートジャーナルなんかが好んで使っている印象があります。カスタマイズの拡張性などは少ないですが、最大の利点は、操作が難しくないため、記者が自分でチャートを作れること。やっぱり記事を書いた人が、何が必要なのか最もよく分かっているものです。

ほかにもInfogramChartbuilderといった有名ツールがありますが、Datawrapperはそのデザインと扱えるデータの多様性、シンプルさなどで一歩先んじている印象です。また時間ができたときにほかのツールの使い方紹介もしたいと思います。

ブロガーや記者はもちろん、ビジネスの資料作りなんかにも重宝しそうですね。

 

 

 

デジタル時代に必要な記者スキルとは

f:id:saitoyasufumi:20150218145909p:plain(Tweetdeckの画面。ポップアップ通知の機能もある)

統計で明らかになるニュースルームの変化

授業の準備でちょっと面白い統計を見つけた。インディアナ大学ブルーミントン校が2014年5月に発表した報告書「The American Journalist in the Digital Age」。1971年からおおよそ10年ごとに行われている、いわば米国ジャーナリストの経年観察だ。調査自体は2013年秋に実施され、ランダムに選ばれた記者1080人が質問に答えた。

一口に書き切れないほどにいろいろ興味深い結果は出ているのだけれど、その中で目を引いたのがAdditional Trainingの項目。大多数(68.1%)が、仕事をする上でさらなるスキル習得の機会が必要だと回答した。そして、必要スキルとして挙げられたのは人気順に①ビデオ撮影&編集②ソーシャルメディア活用③データジャーナリズムだった。

f:id:saitoyasufumi:20150218133940p:plain(Lars Willnat and David Weaver, The American Journalist in the Digital Age)

このグラフはアメリカのニュースルームの変化を如実に示していると思う。クリック率を上げるビデオや写真をつけてソーシャルメディアに投稿することはもはや仕事の一環になっているし、大事件が起こればiPhoneを使って"新聞"記者が現場映像配信だってする。ビジュアルを強く意識して、もっとマルチメディアに展開をー。読者やニーズの変遷に合わせて、現場の記者に求められるスキルは刻一刻と変わり続けている。

70〜80年代の調査では、歴史や経済、法律など専門を含めた知識(Knowledge of world affairs)のニーズがもっと多かったという。教養の人気は減り、ウェブのコーディングなども含めたより実用的なスキルを求める傾向が浮き彫りになった形だ。

新聞紙がなくなり、ウェブだけになる日が近いとは言わない。ただ年々、人々はデジタル世界に生息域を移してきている。魚のいないところで釣りは出来ないのだ。そういった意味でFacebookTwitterの活用は必須と言え、悠長に検討するほどの余裕は本来ない。

どうやってソーシャルメディアを使うのか

大学院の授業でも、ソーシャルメディアの活用はよく登場する。記事に興味を引く見出しをつけてTwitterでつぶやいたり、結果の解析方法を学んだり。調査報道で有名なプロパブリカは出稿記事1本につき5ツイートが記者のノルマ、ハフィントンポストでは写真やSEO対策をした見出しがないと記事がボツになるそうだ。 

f:id:saitoyasufumi:20150218141910p:plain(Lars Willnat and David Weaver, The American Journalist in the Digital Age)

実際にアメリカの記者はソーシャルメディアを良く使う。といっても、上のグラフが示すように、まずは情報源としてだ。ミズーリファーガソンの黒人少年射殺事件を担当したThe Wall Street JournalのBen Kesling記者はその第一報をTwitterで得たという。

朝起きたらTwitter、暇が出来たらTwitter、寝る前にもTwitterをしているよ。だって何よりも早く情報が飛び込んでくるじゃないか。

彼らが主に使っているのは「Tweetdeck」というアプリ。複数のタイムラインを同時に表示できるソフトで、ユーザーを実際にフォローしなくても(ここが大事)ハッシュタグやユーザー名ごとにカラムを作ることができ、流れを整理しながら追うことができる。

例えば#commoditiesというハッシュタグを追えば、全世界のコモディティー市場や価格形成の事情が手元にどんどん飛び込んでくる。もちろん万能ではない。けれど、先物取引市場担当の記者ならば、そこから記事の種を見つけ出すことはたやすいはずだ。

老いる米国ニュース業界

The American Journalist in the Digital Age」では、必要なスキルやソーシャルメディアのほかにも、面白い統計情報がまとめられている。例えば、1982年に32歳だった記者年齢の中央値が、2013年にはなんと47歳にまで急上昇している。

また、学士号を持つ記者の割合は、1971年の58.2%から2013年は92.1%になった。かつては”ワーキングクラス”だったジャーナリストの世界でも、他業界と同じように急速な高学歴化が進んでいることがうかがえる。ただし、アメリカの記者の給料は日本のそれとは比べものにならないほど安いことを付記しておく。

ちょっと怖いのは、この40年間で仕事の満足度(49%→23.3%)や自由度(60%→33.6%)が著しく減ったことだろうか。薄暗い報道部の片隅でじっと耐えている人が今日もどこかでいる。明るい未来を早く見つけ出したい、と切に思う。

 

 

斜陽の米地方紙:シカゴトリビューンの苦悩

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もう会社に残っているのは20代の若手と50代の古株ばっかりだ。働き盛りの記者は『こんなところにいつまでもいられない』って言ってみんないなくなってしまった。

ちょっと耳を疑った。これは僕の古巣の日本の地方紙の話じゃない。シカゴトリビューンのベテランビジネス記者Ameet Sachdevさんが思わず口にした本音だった。

アメリカの新聞経営は近年厳しさを増している。収入の7〜8割を広告に頼る構造だったのが、Claigslistの登場で三行広告を根こそぎ持っていかれ、さらにリーマンショックが追い討ちをかけた格好だ。今は各社必死で講読料収入を増やそうとしている。

学生たちにビジネス報道の現場について語ってほしいーという依頼を受けて教室を訪れたAmeetさん。口をついて出たのは、斜陽の時期を迎えた地方紙の厳しい現実だった。

オンラインに力を入れ始めてから、毎日ノルマみたいな形で記事を出さなきゃいけなくなった。締め切りは24時間。給料はまったく増えないのに。


今、会社が力を入れている戦略はサバーブ(郊外)の読者獲得。シカゴ市民に比べて彼らは新聞に対して忠誠心が高いから。

トリビューン紙のビジネス報道は微妙な立ち位置にいる。アメリカのビジネスマンはthe Wall Street JournalBloombergといったB-to-Bメディアを読む。かといって普通の人々を読者に想定しても、B-to-Cのローカルビジネス報道はニーズがほとんどない。

実はシカゴにはマクドナルドやボーイングキャタピラーといったグローバル企業の本社がけっこうある。シカゴ商品先物取引所(CME)という世界最大の先物取引所もある。

でも、トリビューンはもはやCMEを定期的に取材していない。「先物取引の取材は難しすぎる。そんな人員もいないし、僕らの領分を越えている」(Ameetさん)からだ。

地元大手企業の四半期決算報道についても、「全部はカバーできない」とかなりの量を切り捨てているそうだ。どうやって効率よく対応していくか検討している最中という。

ビジネスの編集部は人を減らされている。こないだも1〜2人辞めていなくなった。補充してもらえることを期待しているけど、いったいどうなることか…

かつてシカゴトリビューンはアメリカを代表する地方新聞だった。系列紙にはロサンゼルスタイムズもある名門だ。そこで働くことを目標として、ジャーナリストが転職を繰り返し、何年も掛けてやっと辿り着ける憧れの場所だったはずだ。

輝きを失い、人材の空洞化が進むかつての名門地方紙。日本でもいったいどれだけのメディアが本当に価値がある情報を提供できているのか。差別化に失敗した情報媒体がいずれたどる道を見た思いがした。

ツイッターを見ていると、ニューヨークとかワシントンDCとか、東海岸のオンラインジャーナリズムの仕事はたくさんあるみたいだよ。そっちを目指した方がいい。

 Ameetさんの最後のアドバイスは米国メディアの趨勢を如実に示していた。

 

 

「StoryMap JS」で地図もストーリーの主役になる

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地図上の点と点をつなぎ、まるでその土地を旅するかのようにストーリーが展開していくーー。

そんな地理的な移動のビジュアライズを簡単にしてくれるのが、Knight Labが開発したジャーナリスト支援ツールStoryMap JS」です。 

新聞でもウェブでも、"どこで"なにがあったのかを分かりやすくするため、記事に地図を付けることは良くあると思います。ほとんどの場合はGoogle Mapを使ったりしていると思いますが、StoryMapはただの添え物の地図じゃありません。画面上でグリグリと動いて、地図や場所の移動そのものが持つ物語性を改めて引き出してくれる優れ物です。 

例えば連鎖して起きた事件など、複数の現場があったり、物語の進展とともに場所が変わっていくというケースってありますよね。そんなときにこのデジタルツールを使ったら、今までよりもきっと読者に伝わりやすく、さらにかっこいい記事が届けられると思います。

使用例を見ると、the Washington PostはISISがどのようにイラク国内で勢力を拡大していったか一目で分かるようにしたり、Aljazeeraはマレーシア航空MH370便が消息を絶つまでの動きをビジュアル化したりと、いずれも"場所"にこだわった物語を作っています。

背景に使用する地図も複数あったり、カスタマイズも可能。無料で使えるのも嬉しいポイントです。WordpressなどのCMSに対応しています。

下に置いたのは授業で作った一例です。シカゴの建築をほんのり紹介しています。